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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

「いい加減に四郎さんも大人になったらどうだ。いつまでも万年不平組じゃ困るぜ。若いうちは、それでもいいがね。――四郎さんの子供は、いくつになった」

「五つだ」

葉巻のにおいが俺には刺戟が強すぎた。それも俺の顔をしかめさせて、

「丸さんは、今日はいないのか」

「上海だ」

砂馬はすぐつづけて、

「四郎さんの知り合いがいろいろ上海にいるぜ」

「そうらしいな」

「丸さんから聞いたか」

「丸さんはなんにも言わない」

「猪沢市太郎の娘が上海にいるぜ」

「そうかい」

と俺は鼻であしらった。

「豪勢なカフェーをやってるぜ」

「猪沢市太郎が荒稼ぎで大金をせしめたのか」

「猪沢は死んだ」

「どこで?」

「上海で殺された」

と砂馬は事もなげに言った。

「誰に?」

俺の問いに砂馬は答えないで、

「猪沢の娘は上海には前から来てたらしいが、カフェーをはじめたのは最近だ」

「話があるってのは、そんなことか」

「女じゃなくて、四郎さんに会わせたい男が上海にいるんだ」

「アビルかな」

そこへ砂馬の細君が自分でお茶を持ってきた。芸名を有明輝子と言う映画女優だった女で、今は女優をやめているが、いかにも女優さんらしい華やかさを全身に漂わせているヤケマブ(美人妻)だ。