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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

慷堂が俺から失われたとき、どうして悲堂のことを思い出さなかったのか。あのとき、どうして悲堂に会いに行かなかったのだろう。

一時は慷堂の先輩格として支那革命に挺身した悲堂も、のちには一介の支那メシ屋と化した。それを風化現象のように考えていたことが、悲堂を思い出させなかったにちがいない。だが、平凡な支那メシ屋になったということでむしろ悲堂を――平凡な生活者になった悲堂を、それゆえにこそ思い出すべきだったのだ。その死を惜しむ気持が俺にそうした気持をもたらした。

悲堂が死ぬ前に、一度会っておきたかったというより、俺自身のために会っておけばよかった。そうだ、そうしていたら、俺は上海などへ来ないで、俺の運命も妙な方向にそれないですんだかもしれぬ。

その三 悪時代

虹口サイドの海寧路の旅館の一室が取ってあった。丸万が案内してくれたが、もちろんこれは砂馬の計らいによるものだろう。砂馬は虹口側でなく、河向うのフランス租界に家を持っていた。どこかはまだ俺に言わなかった。

一時この旅館にいて、そのうち上海に慣れたら、アパートなり下宿なり、快適な住まいを自分で探すといいと丸万は言った。