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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

真赤な爪をした指さきで、かぼちゃの種子の白瓜子をつまんで、歯で器用に割った。

「あのとき……?」

あとの言葉を促したが、照子は白瓜子をまたつまんで黙っていた。

「あのとき、君には――レコ(情夫)がいたんだね」

不機嫌が俺にこんなことを言わせた。

「あのとき、四郎さんのところへ逃げようと思ったのよ」

「君の男は――文士?」

「あのとき、四郎さんの兄さんに会ったわ」

「それは俺も兄貴から聞いた」

「あのとき、四郎さんのお母さんを見かけたけど、ずいぶん若い……」

「あれは、おやじの後妻だ。俺のおふくろはずっと前に死んだんだ」

「あたしの母も……。それで、あたし、あすこに出るようなことになったの」

魔窟のことだ。こうしたことを打ちあける照子は、思いがけない出現をした俺をケムったがってはいないことはたしかだ。

「あのとき、うちのおやじは見かけなかった? おやじも死んだ。君のお父うさんもなくなったそうだね」

俺は白瓜子をつまんで、見よう見真似で割ろうとしたが、照子みたいにうまくやれない。

「歯の間にタテに挾んで、軽く、ごく軽く、こう噛むのよ」

照子は白い歯並を見せながら、自分でやって見せた。