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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

オカマのロクを通して矢萩から大金をせしめていた俺は、ここで、アイズキ(挨拶)をしなくちゃならぬところだが、沙発に泣き伏している照子を見たことが俺の口をつぐませた。

「おいでなすったな」

にやりと矢萩は笑うと、

「おおかた、こんなことだろうと思った」

笑いを消して、俺をねめつけた。

「こいつはスッペエな」

つい、そんな言葉が俺の口をついて出た。痴話喧嘩の真っただ中に飛びこむ手はなかった。

「なんだと……?」

「まずいとこへ来ちまったね」

「まずいか」

矢萩はじろりと照子を見おろして、

「おい、お照」

照子は身じろぎもしなかった。

「おい、起きろ」

矢萩は照子の髪をぐいとつかんだ。その髪を引っ張っておこすというより、髪をまるごと引き抜こうとでもするかのようで、メリメリという音がたしかに俺の耳に聞えたみたいだ。

「イタ……」

声を殺していたが、痛さは照子の眼に涙を溢れさせていた。

「痛かったら、はっきり痛いと言え」

指にからまる抜け毛を、うるさそうに振り払って、

「なんて強情な奴なんだ」

あの刑事と同じことを言って、矢萩はやにわに照子の頬に平手打ちを食わせた。ぴしゃりと、すごい音がして、照子は床にぶっ倒れた。