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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

留置人に手錠がかけられているのは、丸万の奴、よっぽど暴れたからにちがいない。俺もここで、ひと暴れしてやろうと思った。その俺に丸万は、知らん顔をしてろと、きつい眼で注意した。

重野の一味として、丸万は道場へ連れてこられたのだ。

丸万が拷問を受けるのを、俺は見てはいられない。幸い(?)看守が俺を追い立てたので、俺はよろめくようにその場を去った。黒いコウモリの群が、俺の眼の前を、さっと空気を切って飛び交うのを俺は見た。

俺は照子のカフェーへ行った。ホールを横切って、そのまま照子の部屋へ突進した。何のために? それは改めて言うまでもないだろう。

俺は殺気立っていた。ボーイがその俺を中途で呼びとめたが、

「俺の顔を忘れたか」

どなりつけてやったら、ボーイは恐れをなして退散した。

照子が奥の部屋にいるかいないか、たしかめなかった。いてくれなきゃ、しょうがないが、いないことをむしろ望んでいるようでもあった。ノックもしないで、扉を蹴破るようにして、いきなり闖入した。

部屋の真中に仁王立ちに突っ立っている矢萩の姿が俺の眼にはいった。

(畜生!)

上海へ来て、初めて会う矢萩である。