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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页

青空文庫

八

と仲次郎が云った、「いまさら一人や二人の耳を塞いだって、きさまのした事が隠しおおせると思うのか、蝶太夫、――きさまはおれのおかげで三味線にとりついた、かげにひなたにおれが引立ててやった、そうじゃねえか」

蝶太夫は頭を垂れた。

「蝶太夫、そうじゃあなかったのか」

低く垂れた頭で蝶太夫は頷いた。

「ところがきさまは、ちっとばかりめが出はじめるとおれが邪魔になった、おれがいてはたてが弾けねえ、といって腕でおれを凌ぐほどの自信もねえ、そこできさまは卑劣なまねをしやあがった、聞いているか、――きさまは人を使っておれに喧嘩を売らせ、これを見ろ」と云って仲次郎は右の腕を捲った、「この腕を折らせた、男らしく自分でやるならまだしも、人を使ってやらせて、てめえはきれいな面あしていやあがった、このけだものめ」

片膝立ちのまま、仲次郎は拳をあげて蝶太夫の頬を殴った。

八

「済まねえ」蝶太夫はそこへ手を突いた、「魔がさしたんだ、勘弁してくれ」

「野郎」と云いさま、仲次郎は相手にとびかかり、馬乗りになってまた殴った、「この人でなし」拳で、平手で、右から左から殴りつけ、そして右手を首に当てながら叫んだ、「きさま殺してくれるぞ」