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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页

青空文庫

「魔がさしたのよ、いいじゃないの」

「貴女にはわからない、これにはこみいったわけがあるんだ」と彼は云った、「しかし、こんなことがあったいま、じつはこうだと話しても信じてはもらえないでしょう、これでおりうさんとも逢えなくなってしまった」

「あらどうして、あたしはなんでもないことよ」とおりうは云った、「だからこそ、あの人たちにお金を都合してあげたんじゃないの、そうでなければ逃げだした筈でしょ」

「お金、――」と彼は息を止め、それからなにかを吟味するように云った、「貴女はいまあいつらに、金をやったんですか」

「だってお師匠さんは、五十両やる約束だったんでしょう」

蝶太夫はびくっとし、それから急に起きあがった。左の眼のふちが腫れ、両頬も赤くなって腫れていた。彼は不安そうな、おちつかないようすでおりうを見た。

「そんなことを、誰から聞きました」

おりうは含み笑いをした。燗鍋の中の徳利に触ってみ、こっちはまだつかないわ、と云って、膳の上に出しておいたほうを取った。

「ちょっと燗ざましになったけれど、あとのがつくまでがまんしてちょうだい」

「貴女は、あいつらを」と彼は吃った。