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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页

青空文庫

「おい、戦場だぞ」彼は自分に云った、「しっかりしろ得石、ここは関ヶ原だぞ、――これから一といくさ始まるんだぞ、しっかりしろ」

若い女中が酒を持って来、少しまをおいておときが来た。得石は手酌で飲んでいたが、おときが坐ろうとすると手を振った。

「云うにゃ及ぶだ、わかってる」と彼は手を振りながら云った、「二階の支度ができたんだろう、わかってるよ」

「二階へいらっしゃるんですか」

「いらっしゃるかって、――呼びに来たんじゃあないのか」

おときは燗徳利を持ち、口へ手を当てて笑いながら酌をした、「ごめんなさい、お伴れさまならお帰りになりましたわ」

得石の手が、酌をされた盃を持ったまま、動かなくなった。

「いけませんよ」とおときが云った、「あんな若いおきれいなお嬢さまをくどいたりなすっては、罪ですよ先生」

「帰ったって、――本当に帰ったのか」

「約束を守って下さらないからって」と云いながらおときは、おみのの盃を取って、冷えてしまった酒を飲み、その盃をさしだしながら云った、「一つ下さらない」

得石は自分のを飲み、おときに酌をしてやった。

「この次に知らせたとき、もし約束を守って下さらなかったら」