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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页

青空文庫

七

だが彼はすぐに首を振った、「ばかな、おみのはこれからおれと夫婦になるつもりでいる娘だ、金も充分に持っているし、おれを恨む理由がないじゃないか。やるとすればおくにかおかねのどちらかだ、おそらく、藤井の付いているおかねのほうだろう」

風呂を知らせに来たとき、門七は「いま使いの者がこれを」と云って、結び文を渡した。得石が披いてみると、おみのからの呼出し状であった。

七

風呂からあがった得石は、鏡に向かって髪を結わせながら、困った、困ったと心の中で云い続けた。顔には二つ大きな青痣があるし、左の眼は殆んど腫れふさがっている。右の太腿も、痣のできたところが熱をもって痛み、歩くときには少し庇わなければならなかった。

――浅草みよし町の「ひらの」で待つ。

泊るつもりで来てくれ、という文面であった。この顔で、びっこをひきながら、いやだめだ、それはできない。こんなざまを見せるわけにはいかない、これではあいそを尽かされるばかりでなく、いい笑い者にされてしまう。今日は断わろう、と彼は思った。

「なにか仰しゃいましたか」と髪結の又吉が訊いた。

「なんでもない、早くしてくれ」と彼は云った。