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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页

青空文庫

八

――今日こそ逃がさないぞ。

女中の話をうわのそらに聞きながら、心の中で幾十度となく繰返した。今日からおれの新らしい日が始まるんだ、生娘だというだけが、未経験だから気になるが、なに、おれの腕なら大丈夫だ。それに、これまでの大胆なやりかたから考えれば、もう男を知っているかもしれない。そうだろう、いや、それは違う、おれはおみのの胸を診ている、あの乳房は、男を知らない証拠だ。

「あらいやだ」と女中が云った、「あたしの名はおふみですよ」

「おれがなにか云ったか」

「いまおみのって仰しゃったでしょ」

「それは失礼」彼は気取って一揖した、「ではおふみどの、酒を頼みます」

八

時刻はわからない。おみのがいつ来たかも覚えていない。気がついてみると自分は横になって、すぐ眼の前におみのがいた。枕が倒れ、頭が箱に当っていたので、そのひとところが痺れていた。

「もういいでしょ、お起きなさいな」とおみのが云った、「せっかくの晩なのに、いまから酔い潰れちまうなんてつまらないじゃありませんか」

「済まない、潰れるほど酔ってはいないんだ」と云って起き直ったが、右の太腿がするどく痛んだので、彼は思わず呻き声をあげた、「これはひどい、どうしたんだ」