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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
その蓋には「梅花香」と書いてあったが、おみのはその中から緑色の粉末を摘み取り、幾たびも火鉢の火にくべた。爽やかな香りが部屋じゅうに漂い、おみのは得石の手提を持って立ちあがった。そして、しっかりした足どりで戸口のほうへ出てゆきながら、「これは川へ捨てればいいわ」と云った。
明くる日の午前十時ころ、――
離れの掃除にいった女中のおきぬは、悲鳴をあげながら母屋へころげこんで来た。離れで人が殺されているというのである。ゆうべの係は誰だ、おふみさんです、ということでおふみが呼ばれた。
「みのさんという娘さんがお伴れでした」とおふみが云った、「いいえ、どこの人だか知りません、初めてのお客でしたが、ゆうべ五つ半(九時)ごろでしょうか、お伴れさまは悪酔いをしたから泊めてもらうと云って、泊めることはできないと断わったんですけれど、立つこともできないからと仰しゃるもので」
「また心付をにぎらされたんだろう」と主人が云った、「それでその娘の帰ったあとで見にゆかなかったのか」
「ええ、いそがしかったもので、つい」
「誰か町役を呼んで来てくれ」
町役が二人来、主人はかれらを案内して、その離れへいった。