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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页

青空文庫

七

これからは場所をよく選ぶことにしよう。ことによると、市中の料理茶屋へは、町方から手配がゆきわたるかもしれない。それはたいへんな手数だし、全部に手配するということは不可能かもしれないが、それにしても注意するに越したことはない。

――香屋清一、こんどはあんたの番よ。

七

香屋清一は酔っていた。

「初めて会ったのは根岸の古梅庵だ」と彼は話していた、「あれは二月下旬だったかな、古梅庵は六月につぶれてしまったが、精進料理が看板で、長いこと繁昌したものさ」

「それより出会いをするのに便利なうちなんでしょ」と年増芸妓の一人が云った、「若旦那が精進料理なんか喰べにいらっしゃる筈はないわ、ねええ」

五人いる芸妓たちが「そうよそうよ」と声をあげ、幇間の米八が二丁の柝を入れた。とざいとうーざい、夜どおし狂言で腰を折るのは御勝手なれど、いま業平の香屋の若旦那が、ざんげ話の腰を折ることはまかりならぬ、いずれも静かにお控えあれ、などと黄色いような声で叫んだ。

「米八を伴れていたんだ」と清一は続けた、「じつは小稲の云うとおり、古梅庵にはべつ棟のはなれが三つあって、人めを忍ぶ出会いには都合よくできているんだ」