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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
ましょうかと云う」
「そこで眼の色が変った」と小幾が云った。
六人いる芸妓たちの中で、小幾はいちばん光ってみえた。年は二十一か二であろう、縹緻も芸も他の妓たちとさして違いはないがそれでなお一人だけ光っているようにみえた。
「お嬢さまというのが気になった」
清一はちょっと小幾を見たが、聞きながして話を続けた。
「そこで聞いてみると、相手は大商人の娘らしい、小間使を一人伴れただけで飯を喰べに来たが、庭でおれの姿を見かけた、ちょっとわけがあってぜひおめにかかりたい、というんだ」彼は菊弥という芸妓に酌をさせて、一と口飲んだ、「どんなわけで会いたいのか、と訊いてみると、おかみはなにも知らない、おめにかかったら申上げるそうだ、と云う、これは知っている娘だなと私は思った」
「そこで、――」と彼はまた飲んだ、「おかみに案内されていってみると、酒を付けた二人前の膳があり、その一方の膳の上に紅梅の枝がのせてあるだけで、娘はいなかった」
「あの辺にも」と小幾が云った、「気のきいた鼬がいるんですね」
清一は飲んだ酒が喉につかえでもしたように、ぐっといいながら、ちょっと口をつぐんだ。