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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
八
小幾はせせら笑いをした、「弱い女をさんざんおもちゃにして、子供ができたと聞いたらそれっきり、おれはそんなものは知らない、ちゃんと枕代はやってある、枕芸妓の孕んだ子が誰の子かわかるもんかって、――姐さんは若旦那ひとりを守って来ました、あたしは側にいて始めからのことを知っています」
八
「米八」と清一が喚いた、「なにをぼんやり見ているんだ、この気違いを追い出さないか」
米八が立ち、おまさが立ち、左右から小幾を伴れ出そうとした。
「聞いていられないのね」と、小幾は身もがきをしながら叫んだ、「小若姐さんは若旦那ひとりを守って来たし、お金まで貢いでたじゃありませんか、そのために八方へ不義理ができて、吉原へでも身を売るほかはないような始末になってるわ、それを枕芸妓だなんて、――姐さんは死んでしまってよ」
米八とおまさが、むりやり小幾を伴れ去ったが、姐さんは死んでしまう、と云った言葉は、まるで形になって残ったかのように、はっきりと、悲痛な余韻をその座敷に残した。
「なにか陽気なものでも弾きましょうか」と云って松次という若い芸妓が三味線を持った、「さ、若旦那なんになさいます」