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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页

青空文庫

みんなが立って、きまりきった世辞を云いながら、清一を送り出していった。米八と五人の芸妓たちはまもなく戻って来、どうしようか、と相談した。このまま飲むか、それとも引揚げるか、誰にもあとの座敷はないという。それなら気の合った同志で、このまま飲み続けよう、ということになった。

「いまの話が本当なら、勘定のほうの心配はありませんからね」と米八が云った、「ひとつ、このうちのおかみさんも呼びますか」

「だけれど本当かしら」と松次が云った、「なんだかあたし怖いような気がするわ」

菊弥が盃を取りながら笑った、「またおはこが始まった、あんたときたら障子に鳥影がさしても怖いんだから」

「そうじゃないわ、さっき小幾ちゃんが、あの辺には悪い鼬がいるって聞いたとき、あたしぞうっとそうけ立ったわ」

「悪い鼬じゃなくってよ、あの辺にもそんな気のきいた鼬がいるかって」

「いやーっ」松次が両手で耳を押えた、「ごしょうだから鼬だなんて云わないで、あたし鼬が立ちあがって手招きするとこを見ちゃったんだから」

みんなが笑いだし、初めて気楽に盃を交わしあった。暫くはとりとめのない話が続いたが、そのうちにまた、米八がひょいとまじめな顔になった。