轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页

青空文庫

彼は、「この座敷か」と老人に慥かめてから、縁先へあゆみ寄った。

「ちょっとあけてくれ」と男は呼びかけた、「須賀町の上総屋の者だ」

座敷の騒ぎがぴたっとやみ、米八が立って来て障子をあけた。

「知ってるだろうが、目明しの上総屋、おれは七造という者だ」と男は囁き声で云った、「香屋の清一という客がいるだろう」

「へっ」と米八はそこへ坐った、「若旦那はお帰りになりました」

「帰ったって、いつ帰った」

「ついさっきのことで」と米八が答えた、「使いの人が手紙を持って来まして、それを読むとすぐお帰りになりました」

七造という男は顔をひき緊めた、「その手紙は女からの呼出しじゃあなかったか」

「へえ、そのような話でございました」

「いった先は」と七造がたたみかけた、「ゆき先はわかっているか」

「いいえ、なにも仰しゃいませんでした」

「手紙はあるか」

米八は首を振った、「若旦那が持っていらっしゃいました」

七造はくるっと向き直った。米八が「御苦労さまです」と云うのをうしろに、七造は袖垣をまわって走りだした。

宵のくちでもあり、柳橋という土地柄で、街は灯が明るく、往来の人の中には座敷着姿の芸妓も見えるし、料理茶屋からは絃歌の声も聞えて来て、冬とは思えないほど、あたりはうきうきと賑わっていた。