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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页

青空文庫

思って、わざとそんなふうに仰しゃるんだ、っていうこともよくわかっています、一年ちかくもこうしてお側にいるんですもの、いくらばかだって、そのくらいのことがわからないもんですか、――でも、どうしてですか、どうしてこんなふうになさらなければならないんですか」

「あんたなんかの知ったことじゃないわ」

「いいえ知ってます」おまさは坐り、ふるえだしながら、声をひそめて囁いた、「わけはなんにもわかりませんけれど、お供をしていったさきざきのこと、秋から冬へかけて、そこでなにがあったかということは、あたしみんな知っていました」

おしのは口をつぐんだ。病気になってから、いつもぼっと頬に赤みのさした顔が、白っぽく乾いた灰色になり、表情をなくして硬ばった。

「こう云ってもあなたを咎めたり、悪く思ったりしているんじゃありません」おまさは涙をこぼしながら、しっかりした言葉つきで続けた、「あたしはあなたの御性分がわかっているつもりですし、夜なかに独りで泣いていらっしゃることも、苦しそうに唸ったり、うなされたりしていらっしゃるのも聞きました、なんのために、――どういうわけがあってなさるのかは知りませんけれど、どうしてもそうなさらなければならないのだ、ということだけは、いちども疑ったことはありません」