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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页

青空文庫

四

「ちょっと」と彼は声をかけた、「それをしめるまえに、ちょっと私に見せておくれ」

「どうして」

「いいからさ、ちょっとだけだから」

前へまわって坐った源次郎の顔を、おしのはするどい眼つきでみつめながら、静かに、長襦袢の衿を左右へひらいた。

四

皮膚の薄い肌は透きとおるように白い。その病気にかかると特に肌が美しくなるというが、おしのの肌はまえよりも白く、掌の中へはいりそうな乳房は、文字どおり透きとおるようで、乳首のまわりの薄い樺色が、際立って嬌かしくみえた。

「ああ、きれいだ」源次郎は眼をきらきらさせながら呻いた、「こんなきれいな胸を見るのは初めてだよ」

「そんなに見てはいや」

「もうちょっと」と彼は息を喘ませながら云った、「そのままもうちょっと、――ああ、まるでなにかの花のようだね」

「おそのさんよりもきれい」

「おそのさんだって」

「本石町の薬種問屋、むさし屋のおそのさんよ」とおしのが云った、「覚えてるでしょ」

「むさし屋の、――おその」

「思いだして」

「あんな古いことを知っている筈はない」と源次郎は云った、「誰かに聞いたんだね」

「思いだしたのね」

「昔の話だ」と云って彼は手をさし伸ばした、「もうすっかり忘れていたよ、さあ、そんなことはいいからそれを脱いで」