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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页

青空文庫

幸い冬だから、そう早く死躰の匂うようなこともないだろうが、念のために香をつよく※(「火+(麈-鹿)」、第3水準1-87-40)き、火鉢には煎薬を掛けた。――夕方になると、おしのは勝手へゆき、重湯を作るからと云って、ゆきひらへ米を取り、自分でそれを洗った。

「夕飯にはなにをあがりますか」とおまさが訊いた、「これから買物にいって来ますけれど」

「なんでもいいわ」とおしのは答えた、「いいようにしてちょうだい」

そして、おまさが出てゆくと、殆んど入れ違いに母が帰って来たのだ。おしのは気がつかず、香炉にまた香を加えていると人のけはいがし、「ひどい匂いだこと」と云うのが聞えた。おしのはすばやく立ってゆき、襖をあけてみると、おそのが若い男ともつれ合って、立っていた。

――菊太郎だな。

おしのはその四帖半へ出て、うしろ手に襖を閉めた。男は小柄な躯つきで、それが女のようにしなしなしてい、気取った媚のある身ぶりで、おそのの塵除け合羽を脱がしてやっていた。二人とも相当に酔っているとみえ、合羽を脱ぐにもよろめきあって、なかなかうまくゆかないのであった。

「まさや」とおそのが云った、「ちょっと来ておくれ、いないのかえ」