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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页

青空文庫

――父のことで母に云ってやらなければならないこともある。

おまさには暇をやろう。おしのはそう考え、酒や肴が届くとすぐ、「あとはあたしがするから、子供のところへ帰っておやり」と云った。本所の業平におまさの弟がおり、彼女はそこに子供を預けてあった。時刻はおそくなったが、正月の暇をやるからと云って、子供の土産でも買ってゆくようにと、幾らかを紙に包んで渡した。おまさはよろこんで、着替えもせずに出ていった。

――勘づいたな。

こんな夕方になってから、どうして暇を呉れたか、おまさは勘づいていた、とおしのは思った。よろこんだようすにも、着替えもしないで出ていったそぶりにも、それがよくあらわれていたように思え、おしのは恥ずかしさと屈辱とで、躯の中が熱くなった。――酒肴をはこぶあいだにも、母は菊太郎をひきよせて、旅であった面白い話や、たのしかったことなどを、うきうきと語りあい、笑いあっていた。

「あんたもおはいんなさい」炬燵の上に支度ができると、おそのはあまえたような声で娘に云った、「長火鉢をちょっと寄せれば、坐ったままでお燗ができるでしょ」

「あたし炬燵は嫌いなの」