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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页

青空文庫

「ばかなもんですか」とおそのは遮って云った、「あんたがあまりこの人のことで悲しがるから教えるのよ、日本橋よろず町に丸梅っていう袋物問屋があるわ、その店の主人の源次郎という人が、あんたの本当の父親なのよ」

おしのは黙って母を見ていた。

「恥を云うようだけれどほんとなの」とおそのは云った、「半年ほどしきゃつきあわなかったけれど、あんたが自分の子だということは、丸梅の源さんも知っているのよ」

おしのは仮面のように硬ばった顔で、ながいこと身動きもせずにいた。そして、なにを見るともない眼つきで、じっと前方をみつめていたが、やがて、ひどく乾いたかさかさした声で、「それ本当のことなのね」と訊いた。

「嘘にこんなことが云えますか」とおそのが答えた、「もし信用ができないのなら、丸梅へいって訊いてみればわかるわ」

おしのはちょっとまをおいて云った、「あっちへいってちょうだい」

「あっちへゆけって、おしのちゃん」

「なんにも云わないでよ」とおしのが感情のこもらない口ぶりで遮った、「あたし少し考えたいことがあるの、お願いだからあっちへいって下さいな」

おそのはなにか云いかけたが、娘の硬ばった顔つきと、なにものも受けつけないような姿勢に圧倒され、「いいわ」