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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
十一
と云ってよろよろと立ちあがった。おしのはそっと眼をつむった。
十一
奥の六帖で、菊太郎をゆり起こすおそのの声がした。飲み直しよ、起きなさいな、まだ宵のくちじゃないの。もうだめですよ、という菊太郎のねぼけ声も聞えた。駕籠を停めては飲み、飲んでは駕籠に揺られて、骨の髄まで草臥れはてました、これ以上飲めば死んじまいます。いくじのないことを云うわね、くすぐるわよ。菊太郎が叫び声をあげ、それから、「ひどいわねえ」と云うのが聞えた。
「まだ飲むつもりなのね」とおしのは呟いた。頭で考えていることとは無関係に、口だけが動いたというふうであった。
暫くして、おしのは自分の両手を見、眉をひそめながら呟いた、「この中に流れてるのよ、あたしのこの躯に流れているのはおっ母さんの血よ」そして、汚ない物でも振り払うように、両手を激しく振った。
「人間じゃないわね」とおしのはまた呟いた、「おっ母さんは人間じゃない、おっ母さんの血の流れているこの躯も人間じゃないわ、ああきたない」
おしのは身ぶるいをした。戦慄のように激しく身ぶるいをし、すると上唇が捲れて、歯が剥きだしになった。
――ひと言あれに云いたいことがある。