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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
とは別れてみせる、本当だ」
「あたしも御飯なんか炊けやしないわ」
「おりうさんにそんなことをさせるもんか」
「針も持てないし洗濯や掃除なんかもできやしないわ」女はあまえた声でゆっくりと云った、「おまけにあたし、たいへんなやきもちやきよ、もしかしてあたしがお師匠さんのおかみさんで、お師匠さんがほかの女とこんな逢曳きなんかしたら、あたし二人とも生かしてはおかないわ」
女は頭へ手をやり銀の平打の釵を抜き取ると、それを逆手に持って云った、「二人ともきっと殺してみせるわ、きっとよ」
「うれしいね、うれしい心意気だ」男はひからびたような声で笑い、眼にけものめいた色を湛えながら、上下の唇を舐めた、「おりうさんのような人にそれほど思いこまれれば本望だ、ああいいとも、もしそんなことがあったら殺して下さい、逃げも隠れもしませんから」
女は釵を持ち替え、その釵で左の手のひらを静かに打ちながら、「これでね」と囁くように云った。
男がつと立ちあがり、女が眼をあげた。
「手洗いにいって来ます」と男が云った、「ついでに酒のあとをね」
女は頷いた。
男は二階をおりて女中を呼び、なにやら囁いて手洗いにいった。