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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
人間豹はどこにも潜んでいないことが確かめられた。
警官が一とまず引き上げて行くと、そのあとへ、大都劇場の人たち、蘭子の友だちなどが、ドヤドヤとお見舞いに来た。その人たちの賑やかな話し声が、さいぜんからの恐怖を、しばらくのあいだ忘れさせてくれた。
午後になって、事件以来蘭子の劇場への送り迎えを命ぜられている熊井という柔道家の若い事務員がやってきた。それと引き違いに、賑やかな人たちは帰って行って、あとには、蘭子親子と、神谷と、熊井の四人だけが残った。
淋しくなると、蘭子の心に、どうにもできない不安がよみがえってきた。もう日暮れには間もないのだ。日が暮れて、この世が闇にとざされると、あの化物がのさばりはじめるのだ。今夜もきっとくるだろう。いや、くるのではなくて、もうちゃんとこの家のどこかにいるのかもしれない。警官たちは誰もいないと断言したが、相手はあの怪物のことだ。どんな意外な隅っこに、人目をのがれて隠れていまいものでもない。
彼女は話の最中に、ふと聞き耳を立てて、まっ青になるようなことがたびたびであった。そればかりでない。しまいには、わざわざ立って行って、部屋の隅に背伸びをして、じっと耳をすましたりした。