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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

名探偵の憂慮

「この手紙をね、ここの家の玄関の戸の隙間から、ソッと投げ込んでくるのじゃ。よいかな。誰にも見られぬよう、充分気をつけてな」

と命じた。

この運転手、ただのやつではないとみえて、妙な命令を疑いもせず、無言のまま車を降りると、忍び足で門内に消えて行った。

名探偵の憂慮

邸内の応接室では、アームチェアにもたれた明智小五郎の前で、神谷青年が、人間豹恩田との異様な出会いからのすべての出来事を、くわしく説明していた。

明智は例の、青年時代からの癖で、モジャモジャに伸ばした髪の毛の中へ、右手の五本の指を櫛のように突っ込みながら、時々合槌を打って、非常に熱心に聞き入っていた。なかなかの長話なので、そのあいだには、美しい明智夫人文代さんが、手ずから飲物を運んで、三度もその部屋へはいってきたほどであった。

「そういうわけで、蘭子は一時安全であるようなものの、決して油断はできません。それに、やつは僕に対して深い恨みを持っているのですから、僕自身も身辺の不安を感じるのです。そこで、先生に警察とは別に、恩田の隠れがを探偵していただきたいと思って、お訪ねしたわけですが……」

神谷がそう言葉を結ぶと、明智は何かしら心配らしい顔をして、