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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
何事が起こったのか、聞き耳を立てると、ややはっきりした声が聞こえてきた。
「オイ、こん中に人間豹が逃げ込んでいるんだってよ」
「人間豹てなんだい」
「おめえ知らねえのか。この頃、世間で騒いでいる大悪党だよ。江川蘭子を殺した恐ろしいけだものだよ」
そんなことがかすれかすれに聞こえてきた。
まだ明智はその恐ろしい意味をはっきりと悟らなかった。
「人間豹がいるなんてばかなことがあるもんか。あいつはちゃんと捕縛されているのじゃないか」
迂闊にもそんなことを考えていた。
そのうちに、鉄管人種の騒ぎはだんだん大きくなって行くように見えた。あっちでもこっちでもどなり声が響きはじめた。
「オーイ、みんな起きろよう。こん中へ人間豹が逃げ込んだってよう」
「人殺しがいるんだってよう」
それらの声々が、鉄管にこだまして、物凄くとどろきわたった。
明智はやっと、彼の恐ろしい立場を了解した。
「人間豹はほかにいるんじゃない。このおれが人間豹だった。もしこの中に恩田の人相風体を知っているやつがいたら、たちまちおれが人間豹にされてしまうに違いない」
実になんとも形容のできない困惑であった。