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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
たった一つの空頼みなんだよ。ああ、あれがうまくやっていてさえくれたらなあ」
「あれって誰のことだい。伏兵を忍ばせておいたとでもいうのかね」
恒川氏は相手の意味を推しかねて聞き返した。
「ああ、三分間……いや二分間でもいい。せめて二分間あいつの息がつづいてくれたらなあ。ねえ、恒川君、人間の息が二分間以上つづくと思うかね」
「変なことを言い出したね。君の癖だぜ。二分間ぐらいつづく人間はいるさ。海女なんかその倍もつづくかもしれない。だが、普通の都会人にはとてもだめだね。三十秒だって怪しいもんだ」
「そこが僕のつけ目なんだよ。その都会人の中に二分間も息のつづくやつがいたらどうだろう。或る場合には大へん役に立つかもしれんじゃないか」
「君はそういう男を知っているのかい」
「ウン、知っているんだ。知っているんだ」
それきり名探偵はだまりこんでしまった。恒川氏も相手の癖を知っているので、深く尋ねようともしなかった。
間もなく、二人は明智探偵事務所の門前に車を捨てて、空き家のように人気のない屋内へはいって行った。
「シャーロックのやつ、ひどく逸っているぜ。やっぱり犯罪の匂いがわかるんだね」