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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

「おや、あれはなんだ。車をとめてくれたまえ」

その声に驚いて、恒川氏がシャーロックの綱を引きしめた。運転手がブレーキを踏んだ。

「君、懐中電燈を持ってませんか」

同乗の刑事に尋ねると、幸い一人がそれを用意していた。明智はその懐中電燈を借りて車をおりた。

「やっぱりそうだ。恒川君、やつはこの辺で人形箱の蓋をひらいてみたんだ。そして、一杯喰わされたことを知って怒り出したんだね」

明智は路上を照らしながらだんだん先へ歩いて行った。その移動する懐中電燈の下に、マネキン人形の首が、手が、足が、次々と現われては消えて行った。さいぜん恩田が車上から投げ捨てたのは、この人形だった。文代さんではなかった。いくら獣類でも本物の人間を道のまんなかであんな目にあわせるほど向こう見ずではなかったのだ。

「ハハハハ、奴さん、大切な獲物が人形だとわかったとき、どんなに憤慨したか眼に見えるようだね。この惨酷さはどうだ。八ツ裂きだね。人形でよかったよ」

明智は一と通り見おわって自動車に戻った。

「だが、あいつがここで真相を発見すると、そのままオメオメ帰っただろうか。また君の家へ取って返したんじゃあるまいか」