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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
熊
「人間豹」いかに大胆不敵の魔術師とはいえ、これが果たして可能のことであっただろうか。
熊
明智がチンドン屋の跡を追って谷底の抜け道から裏通りへと曲がって行ったとき、「よいとまけ」姿の文代さんは、一と足おくれて、ちょうど抜け道の中ほどを歩いていた。
道の片隅に、低い鉄の欄干があって、そこから狭くるしいコンクリートの階段が、建物の地下へと、陰気なほら穴のようにくだっていた。映画館の地階を区画した地底カフェの入口である。
文代さんが今その欄干のそばを通りすぎたとき、ほら穴の階段から、サッと黒いものが飛び出してきたかと思うと、いきなり彼女の背後から組みついて行った。
文代さんが両手を上げるのが見えた。だが、声を立てる暇はなかった。黒いハッピを着た男と「よいとまけ」の女とが、一とかたまりになって、異様な生人形のように動かなかった。男の手はうしろから女の口へ、そこに白い布屑みたいなものが、猿ぐつわのように圧しつけられていた。
やがて、男はグッタリとなった文代さんを、軽々とあつかって背中におぶったかと思うと、傍若無人にもその異様な姿で、映画街の表通りの雑沓の中へと歩いて行った。