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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
しかし……」
「思い出せませんか。それじゃね、そのピンとはねた黒い将軍ひげを取って、その代りに白い口ひげと、それから、房々した白い顎ひげを想像してごらんなさい。そういう爺さんを見たことはありませんか」
「白い口ひげ、白い顎ひげ……おや、そうだ。あいつとそっくりだ」
神谷は愕然として色を変えた。
「恩田の父親ですか」
「そうです。そうです。あいつに違いありません。だが、どうして……」
「たぶんそんなことだろうと思ったのです。僕は恩田の父親というものにはまだ対面したことがないので、君に尋ねてみたのですが、やっぱりそうだ。神谷君、こいつは、きのうチンドン屋に化けて浅草の映画館の横で僕たちを待ち受けていたのですよ。そして、こいつが僕を裏通りへ誘って、こんな挑戦状みたいなものを渡して暇取っているあいだに、息子の『人間豹』のやつが、僕の家内を引っさらって行ったのです」
「ああ、そんな事があったのですか。とうとう先生の奥さんまで……それじゃ早く救い出さなければ」
「僕もそれを考えているのです」
「どこへ連れて行ったのか、お心当たりは?」
「このZ曲馬団の中だと思うのです」
明智が青い顔をして答えた。