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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
彼の右手に握られたコルト拳銃から、名残りの白煙がかすかに立ち昇っていた。
彼のあとにつづく警官は、明智の電話によって恒川警部が手配してくれた、K警察署からの先発隊であった。明智がZ曲馬団の木戸口に着いた時には、彼らはもう自動車を降りて明智の到着を待ち構えていた。
「明智さんだ。明智さんだ」
変装はしていたけれども、さすが大衆の眼早さで、見物席のどこからともなく、名探偵讃美の声が起こった。彼らは新聞記事によって、明智小五郎と「人間豹」との対立をよく知っていた。明智夫人誘拐事件についても、けさの新聞を読んだばかりだ。その明智探偵が、物々しい警官隊と共に乗り込んできたからには、怪人「人間豹」がこの小屋の中に潜んでいることは十に一つも間違いはない。いや、それどころか、あの檻の中で虎の餌食になろうとした美しい人は、きっと明智夫人文代さんにきまっている。ああ、なんという恐ろしい場面に出くわしたものだろう。敏感な人々は、たちまち事の真相を悟って身震いを禁じ得なかった。
大山ヘンリーに変装した「人間豹」の父親は、明智の姿を認めると、サッと顔色を変えて逃げ出そうと身構えたが、すばやい警官隊は、むろんその余裕を与えず、ドカドカと舞台に駈け上がって、彼のまわりを取り囲んでしまった。