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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
それはやっぱり頑丈な板壁の、まるで倉庫のような広い部屋であったが、一方の隅に本物の鉄の檻の一部分が見えて、その中に豹の上半身が横たわっているのだ。檻のそとは一面の土間で、板壁がひどく頑丈なのを見ると、時には豹を檻から出して、部屋の中を散歩させるのかもしれない。
気のせいか、俄かに耐らない野獣の臭気が鼻をついた。臭気ばかりではない。このいやにむし暑いのは、なんであろう。今までは昂奮のあまり、それとも感じなかったけれど、隙間に眼を当てていると、その暖かさは、隣の部屋から伝わってくるように思われる。それに、よく見れば、窓からの光線のほかに、かすかに赤い光が、チロチロと動いているように感じられる。ああ、わかった。ここからは見えぬけれど、寒さを嫌う豹のために、ストーブが焚いてあるのだ。さっき塀のそとから眺めた煙突の煙は、この部屋から立ち昇っているのに違いない。
彼は中腰に疲れると、眼をはなしてうずくまるのだが、しばらくすると、不安に耐えられなくなって、また隙間を覗く。そうして、うずくまったり覗いたりしながら、なんのまとまった思案もつかぬ間に、時間はドンドンたっていった。