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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

舞台の踊子たちは、いつもえがおを絶やさなかった。それに呼応するように、何千人の見物が、まったく同じ笑顔でニコニコと笑っているのだ。舞台も見物席も、別天地のように明るくなった。お面の噂にひきつけられて、レビュー嫌いの人々までも、続々と見物に押しかけてきた。どの劇場も、レビューとさえいえば満員であった。つまり、「レビュー仮面」は、もう今では、劇場経営者のマスコットとさえなってしまったのだ。

いや、そればかりではない。劇場内の「レビュー仮面」は、やがて徐々に街頭に進出しはじめた。

銀座の夜をそぞろ歩きする過半の人々が、同じ笑いの表情に変って行った。電車の中も、地下鉄の中も、同一表情の男女によってうずめられた。大げさにいえば、東京じゅうが、同じセルロイドの顔でニコニコと笑い出したのである。

そういう流行が或る程度に達すると、一方に弊害の生ずるのは止むを得ないところであった。横着ものが、お面に隠れて、さまざまのいたずらをはじめたというのは、さもありそうなことであるが、更に困ったことには、このお面が、悪漢たちの大っぴらな覆面として役立つことがわかってきた。仮面の万引、仮面の空巣狙い、はては「仮面強盗」