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のぶこ

伸子

宮本 百合子

「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页

青空文庫

また、伸子には、自分が、母の強調する意味で悪いとも考えられなかった。気の毒なことと悪いこととはおのずから別に思えた。それに、多計代の方から乱暴に与えた数々の言葉に対して、母の云うことだからと折れる度量は、伸子には持てなかった。

「では、どうしても自分の云うことをまげないと云うんだね」

「――お座なりを云っても仕方がない……」

「じゃあ仕様がない、お前と私とは根本的に相いれないのだ。――そういうわけなら」

多計代は、改めて決定的に宣告した。

「以来、出入りしないことにして貰いましょう。その方がお互のためだし、佃さんもいいでしょうから……」

彼女は、終りの方をやっと云って、顎や唇を震わしながら顔をそむけた。その打挫けた横顔を見ているうちに、伸子は、母が哀れになって来た。彼女には、母がそんなことまで云い出したのは、決して永続的な考えからでなく、当人こそ思慮の結果と思うだろうが、実は強烈な感情の刺戟を好む、激し易い性質から出たこととしか思われなかった。これでもか、これでもか、と押して来た自然の勢いで、或は予期せず、そんな断定的なことまで口にしたのではなかろうか。