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のぶこ
伸子
宮本 百合子
「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页
伸子のテーブルは八人詰であった。が、そこにはいつも七人しかいなかった。彼女は今夜特別安川に会うことを楽しみにしていた。咲子の顔を見たら、
「ああお腹が空いた!」
とでも何とでも呑気に喋って、朝からの滅入り込みを退散させることを楽しんでいたのであった。
けれども、咲子は、一寸おくれて入って行った伸子を見ると、行儀よく二つの腕を胸の下で組み合せたまま軽く首を傾け、外国人の友達に対してどおり、
「今晩は。――いかが?」
としきたりの挨拶をした。
伸子は空腹でいながら味のない夕食を食べはじめた。
その朝、伸子は十時から十一時まで十九世紀の英文学史の講義に出席した。時間が終ると、彼女は急いでアヴェレー・ホールへ行った。そこは、美術、建築などに関する図書館兼研究室であった。
寄宿舎に入って数日後、伸子は偶然、安川を探ねてこの建物へ来た。安川は、日本の美術図案に古来使用されて来た便化の伝統をここで調べていたのだが、人気ない静けさ、建物の小ぢんまりした工合が伸子の気に入った。大図書館は壮大な代り、内部が議事堂のようでひどく落着きにくかった。伸子は翌日から読んだり書いたりに来ることにした。