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のぶこ
伸子
宮本 百合子
「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页
伸子は鎮まらない感動で、息づまったような低声を出した。
「聴えてよ――よく、かけて下さったこと」
「お一人ですか?」
「ええ」
「ついさっきまで会議があって、いそがしい思いをしました。――あまりひどい天気なので、――一寸どうしていらっしゃるかと思って……」
「有難う」
伸子の胸には再び、火の塊りのようなものがこみ上げた。できることなら一飛びに、彼の手許へころがりこみ、このがむしゃらな熱情を、同じように激しい燃える彼の手で捕え、締めつけて欲しい、――言葉に言えない感情で、伸子は送話口に額を圧しつけたまま黙ってしまった。
「もしもし」
「――なあに?」
「どうなさいました?」
「…………」
向う側にも情の深い沈黙が生じた。伸子は、夜の電線を伝わって、まざまざと迫って来る彼の心持を感じた。その感じは迫り迫って、二人を隔てる距離がまるでつまり、遂に、佃は、じき壁のあちら側まで来ているようにさえ思われた。やがて、先から云った。
「そろそろ時間になるかもしれませんね。――切りましょうか」
「そう?」
「ずっと部屋ですか? よくおやすみなさい。私は予定通り明後日帰ります」
「何時頃?」