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ようちゅう

妖虫

江戸川 乱歩

「キング」大日本雄弁会講談社、1933(昭和8)年12月~1934(昭和9)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,290 字 · 239 页

青空文庫

守は少しムッとして答える。

「余程御懇意な方ですか。でないと、実は、面会は禁じられているのですが」

事務員は奥歯に物のはさまった様な、妙な云い方をする。

「じゃひどく悪いのですか」

「エエ、今朝から病勢が悪化しているのです。それに、少し事情がありますので……」

「いずれにしても、一度取次いでくれませんか。どうしても面会出来ない様なら帰りますから」

事務員は、又しても、守の姿を、頭のてっぺんから、足の先までジロジロと眺めてから、不承不承に奥へ消えて行った。

何だか変だ。もう余程よくなっていなければならない時分なのに、突然悪くなった様なことを云う。そして、あの警戒ぶりはどうしたというのだろう。何かあったのではないかしら。

異様な不安を感じながら、佇んでいると、暫くして引返して来た事務員が、今度は俄かに愛想よくなって、

「御面会なさるそうです。どうかこちらへ」

と先に立った。

「病勢が悪化したと云うのは、どんな風なのですか。傷口が化膿したとでもいうような……」

守が彼のあとについて歩きながら訊ねると、事務員は、少し声を低くして妙なことを云った。

「イイエ、傷の方は、もう殆ど治っていたのですが、実は思いがけないことがありましてね。