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ようちゅう

妖虫

江戸川 乱歩

「キング」大日本雄弁会講談社、1933(昭和8)年12月~1934(昭和9)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,290 字 · 239 页

青空文庫

蠍だ。空一杯の黒雲の様な蠍だ。歯ぎしりの出る程いやらしい蠍の腹部だ。それが、今にも品子をおしつぶさんばかりに、目を圧して迫って来るのだ。

何とも形容の出来ない、恐ろしい悲鳴を発して、彼女は目覚めた。見廻すと、そこは白い寝室であった。ベッドの枕下の小さい卓上電燈が、天井に丸い光を投げていた。

品子は、全身油汗にまみれて、恐る恐る寝返りをした。そして、庭に面したガラス窓を見た。

カーテンが半開いて、その向に真暗な夜があった。

品子の寝室は洋館の階上に在ったので、梯子でもかけなければ、その窓へ忍び寄る事は出来なかった。その上ガラス戸には、内部から厳重な締りがしてあった。

「大丈夫、大丈夫、窓の外には人間のよじ昇る足場なんてありやしないのだから」

彼女は、高鳴る心臓をおし静める様に、自分自身に云い聞かせた。

だが、人間はよじ昇れなくても、虫なれば、蠍なれば、苦もなく這い上って来るかも知れない。

ふと、そんなことを考えて、彼女は思わず身震いした。

窓の外を、非常に大きな虫類が、ゴソゴソと這い上っている幻想が、今の悪夢の続きの様に、彼女を戦慄させた。

「どうかしているんだわ、あたし。