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ようちゅう
妖虫
江戸川 乱歩
「キング」大日本雄弁会講談社、1933(昭和8)年12月~1934(昭和9)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,290 字 · 239 页
「夢ですよ。君がその事ばかり気にしているものだから」
守青年は品子の父と同じ様な意見を述べたが、それは相手を安心させる口先ばかりであって、内心ではある恐ろしい疑いを抱いていた。桁はずれの悪魔を、常規で律することは出来ない。それが信じ難い出来事であればある程、却って用心しなければならないのだ。
彼は帰りがけに、品子に気づかれぬ様に注意しながら、ソッと庭に降りて、彼女の寝室の窓の下へ行って見た。
「探偵さん」の彼は、そこの地面に何かの痕跡を予想していたのだが、行って見ると、果して果して、そこには余りに明白な悪魔の足跡が残っていた。
丁度問題の窓の下の辺りに、棒の先でつけた様な穴が二つ、一尺五寸程の間隔を置いて、ハッキリと地面に残っていた。
梯子を立てかけた跡だ。
蠍が梯子を使用したのだろうか。あの巨大な妖虫は、まるで人間の様に、梯子を登って寝室の窓を覗いたのであろうか。
守青年はいつか、その庭園の一隅の物置小屋の中に、梯子が入れてあるのを見たことがあった。ふと「あの梯子かも知れない」と気づいたので、その物置に入って調べて見ると、案の定、梯子の脚に、まだ生々しい土が附着していた。