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ようちゅう

妖虫

江戸川 乱歩

「キング」大日本雄弁会講談社、1933(昭和8)年12月~1934(昭和9)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,290 字 · 239 页

青空文庫

することは出来なかった。

「オイ、君、どうも妙だね。人殺しがあるというから飛んで来たんだが、これじゃそんな形跡は少しもないじゃないか。君の頭がどうかしていたんじゃないのかい。ここは有名な化物屋敷だからね」

「大方夢でも見たんだろう」

警官達は腹立たしげに、相川青年を責めた。

「イヤ、決して夢やなんかじゃありません。確かに人殺しです。それも並々の犯罪事件ではなさそうなんです。この床の間に木箱があって、その中から妙な歌が聞えて……」

「どうも君の話は変梃だぜ。箱なんて何もないじゃないか。それに箱の中で歌を歌ったなんて、人殺しの最中にそんな馬鹿馬鹿しい真似をする奴があるもんか」

「常識では判断出来ないかも知れません。併しこれには何か訳があるのです。常識的でない丈けに、恐ろしく……ア、併し、あれは一体なんでしょう」

相川青年は弁じながら、ふと床の間の壁を見ると、そこに妙なものがあった。一人の警官の手にする懐中電燈が、丁度床の間の壁の真中を丸く照らし出していたが、その円光の中に、何かしら恐ろしい物の形が浮出しているのだ。

「ホウ、何か描いてあるね」

警官もそれに気づいて、懐中電燈を近づけて調べて見ると、茶色の壁からにじみ出した様に、赤黒い色彩で、足の多い一箇の怪物が、そこに粘着いていた。