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ようちゅう

妖虫

江戸川 乱歩

「キング」大日本雄弁会講談社、1933(昭和8)年12月~1934(昭和9)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,290 字 · 239 页

青空文庫

名探偵

きっと、きっと、あいつが覗いているのだ)

と思うと、ゾーッと寒気がして、呼吸が苦しくなって、鏡の中の全身が見る見る青ざめて行くのが分った。

だが、見まいとすればする程、心とは離れ離れに、目だけが、恐ろしい力で、その方へ向いて行くのを、どうすることも出来なかった。

彼女は見た。

夢なのか、幻なのか、イヤイヤそうではない。恐れに恐れていたものが、とうとう現われたのだ。

そこには、透明ガラスの一駒一杯に、鉄格子の外から、悪夢にばかり見ていた顔が、現実となって覗いていたのだ。

闇の中に浮き上った、あの恐ろしい程無表情な顔。大きな青眼鏡をかけて、濃い口髭を生やして、鳥打帽をまぶかに冠った、あの顔。

珠子はその恐ろしい顔を見つめたまま、まるで見えぬ手に抱きすくめられでもしたように、じっと立ちすくんでいたが、やがて、彼女の真蒼な顔が、べそをかくように歪んで、下顎がガクガクと震えたかと思うと、精一杯の力で口が開いて、「ヒーッ」というような、一種異様の甲高い悲鳴が、湯殿の壁に谺して、物凄く響き渡った。

名探偵

この悲鳴を聞いて、真先に駈けつけたのは、兄の守と、殿村夫人と、一人の書生とであった。