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ようちゅう

妖虫

江戸川 乱歩

「キング」大日本雄弁会講談社、1933(昭和8)年12月~1934(昭和9)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,290 字 · 239 页

青空文庫

「ホホウ、三笠龍介。僕がその三笠龍介だとでも云うのかね」

それを聞くと、守はギョッとして、腰を浮かさないではいられなかった。

(この親爺が気違いか、でなければ、俺の方が気違いなんだ。それとも俺は夢を見ているのじゃないかしら)

「僕は三笠先生をお訪ねしたのです」

「ホウ、そうかね」

「じゃ、あなたは、この家の御主人じゃなかったのですか」

「マア、主人みたいなもんだ」

老人は鬚の中から、ニヤニヤ笑っている。

「それなら、三笠先生でしょう」

「そう見えるかね」

「エ、何ですって?」

「そう見えるかと聞いたのさ。俺も変装がうまくなったものだなあ。ハハハハハハ……」

守はピョコンと立上って、椅子を小盾に取って身構えながら、えたいの知れぬ相手を睨みつけた。

「君は誰だ。なんだって、こんないたずらをするのだ」

老人は腰かけたまま、平気でニヤニヤ笑っている。

「いたずら? フフフ、いたずらよりゃ少し気の利いたことだよ。酔狂にこんな下らない変装なんぞするものか」

「じゃ、なぜだ。なぜそんなことをして僕をだましたのだ」

「君を虜にする為にさ。君は三笠の親爺の次に、俺達には邪魔っけな人間だからね」