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きょうふおう
恐怖王
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页
だが、追駈けながら刑事の吹き鳴らした呼笛の利目があった。それを聞きつけた一人の警官が、丁度その時、賊の前面に現われたのだ。如何な乱暴者も、走り疲れた所へ、腹背に敵を受けてはかなわぬ。烈しい格闘の末、ゴリラ奴とうとう捕縛されてしまった。
二人の警官は、賊の繩尻を取って、令嬢の死骸の倒れている場所へ引返した。
「君、今も云う通りこいつは恐怖王の手下のゴリラに違いない。この死骸を抱て走っていたのだからね。これは君、花園伯爵の令嬢だぜ」
K刑事が説明した。彼等は見知り越しの間柄だ。
「フム、そうか、昨夜の一件だね。こいつはでっかい捕物だぞ」
二人は思わぬ功名にホクホクしながら、地上の死骸を覗き込んだ。街燈の光がボンヤリと、女の洋装を照らしている。
「違いない。この服装の様子では、確に伯爵令嬢だぜ」
「ヤ、美しい顔をしている。まるで人形みたいだぜ」
警官達の昂奮した声に混って、クスクスと忍び笑いが聞えた。
「オヤ、誰だ、今笑ったのは。貴様だな、コラ、お前何がおかしいのだ」
K刑事は、繩尻をグイと引いて、ゴリラ男を叱りつけた。
賊は叱られても、まだニヤニヤ笑っている様子だったが、別に口答えはしなかった。