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きょうふおう

恐怖王

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页

青空文庫

そして、夏子の美しい顔が、ズーッと遠く小さくなって、いつとはなく意識がぼやけて行った。

蘭堂は、目まぐるしく変転する長い長い夢を見つづけていた。

それは歯の根も合わぬ程恐ろしい快い悪夢であった。真暗な中に白い巨大な芋虫の様なものが、無数にクネクネとよじれ合っていた。それが様々の色に変って行った。赤い芋虫が一等恐ろしく、ゾッとする様な魅力を持っていた。

変転する場面は、皆その様な感じのものであった。どれもこれも身の毛もよだつ悪夢であった。

夢見ながら、触覚では、絶え間なく、暖くて柔い触手の様なものでくすぐられるのを感じていた。

グッショリ油汗になって、ふと目を覚ますと、顔の上に何か重い柔いものが乗っかっていた。それが夏子の顔であることを悟るのに長い時間かかった。

彼が身動きすると、夏子は顔を離して、枕元に立った。もうちゃんと着替えをすませて、お化粧さえしていた。

まだおぼろげな意識で、ぼんやり見上げている蘭堂の頬を、軽く叩いて、彼女はニッコリ笑った。

「可愛いお坊ちゃん、お目がさめて?」

そういったかと思うと、彼女は何か用ありげに寝室の外へ出て行ってしまった。