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きょうふおう
恐怖王
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页
夏子はあどけない巻舌になって云った。
「ホホウ、あなたは、あの殺人鬼が、我々と同じ様な善良な社交生活を営んでいるとおっしゃるのですか」
「エエ、そうでなければ、あんな危険を冒して、ゴリラを殺しに行く筈がありませんもの。若しかしたら、恐怖王は恋をしているんじゃないかと思いますわ。恋人に身の素性を知らせたくない為ばかりに、あんな冒険をやったのではないかと思いますわ」
そう云って、夏子はうるんだ目で、じっと蘭堂の顔を見つめた。蘭堂の方でも、何故か相手の目を覗き込まないではいられなかった。二人はお互の目を見つめたまま、長い間黙り込んでいた。そこに何かしら異様な、ゾッとする様なものが感じられた。
「ホホ…………」夏子が頓狂に笑い出した。
「サア、これを一つ召上れ。強いのよ。でも大丈夫。あたし介抱して上げるから」
彼女は、なまめかしく云って、赤い色の洋酒をグラスについで勧めた。
蘭堂は妙なゾッとする様な感じを払いのけようとして、それを一息に飲みほした。火の様に熱い酒だった。喉から食道がカーッとほてって、それが、胃袋に落ついた時分に、俄に脈が早くなって来た。脳髄がズキンズキンと持ち上げられる様な気がした。