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きょうふおう
恐怖王
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页
「書生を少し遠方へ使いに出しましたので、あとは女ばかりで心細うございますから、ご迷惑でも、書生の帰りますまでお話し下さいませんでしょうか」
そう云われて、蘭堂は一種の当惑を感じないではいられなかった。未亡人と云っても、夏子はまだ二十五六歳の若さで、その上非常に美しかったからである。しかも、いつの間にか日が暮れて、客間の装飾電燈が赤々とともり、自然晩餐の御馳走になるという様な羽目になってしまったからである。
「恐怖王」について、或は探偵小説と実際犯罪について、色々話している間に、案の定、女中が現われて、食堂の準備の整ったことを知らせた。
食堂も客間に劣らぬ贅沢な設備で、十人以上のお客様が出来る程広かったが、その大きな食卓の真白な卓布の上に、おいし相な日本料理が手際よく並べてあった。
「主人がなくなりましてから、コックも置きませんので、女中の手料理で失礼でございます」
夏子は詫びながら、あでやかに笑って、卓上の洋酒の壜をとった。
「わたくし、お酌させて頂きます」
蘭堂は益々当惑を感じながら、仕方なく盃を上げた。
「俺はゴリラ男の一件を知らせてやった為に、こんな好遇を受けるのか、日頃愛読する小説の作者として尊敬されているのか、それとも……」