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きょうふおう
恐怖王
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页
と忽ち逆襲だ。
「マア、およろしいではございませんか。このお酒お口に合いませんでしょう。今ね、今お口に合うのを、あたし持って参りますからね」
夏子は少しよろめく様に立って、手で「待っていらっしゃいよ」と合図しながら、一方のドアから出て行った。
蘭堂は酔わぬといっても、強いられた強い洋酒に、頭の中が少し熱っぽくなって、この立派な邸宅での思いがけぬもてなしが、いや、そればかりではない、昼間からの空中文字、砂文字、ゴリラ男までが、何かこう本当でない、悪夢でも見ていた様な気持ちになって来るのであった。
彼が、そうしてボンヤリと白い卓布に頬杖をついていた時、突然、これも亦悪夢の様に、どこかの部屋から、鋭い女の悲鳴が聞えて来た。
「オヤ」と思って、聞耳を立てると、
「助けて! 助けて! 大江先生助けて!」
という、恥も外分もない叫び声は、確かに夏子未亡人だ。
捨てては置けぬ。蘭堂は夢の中の様に立上って、廊下へ駈け出した。廊下のはしには、女中達が目白押しにかたまって進みも得せず、かたえの室を指さしている。明かに救いを求める叫び声は、そこのドアの中から漏れているのだ。