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きょうふおう
恐怖王
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页
そこには、まだあかあかと電燈が点じてある。程なく主人夫妻が揃って立現われた。
「京子さんは御無事ですか。若しや……」
蘭堂は伯爵を見ると、挨拶は抜きにして、先ずそれを尋ねた。
「ア、もうあんたもご存知ですか。よく来て下さった。わしも途方に暮ているのです」
伯爵の返事だ。伯爵はまだ大江と京子との親し過ぎる関係については何も気づいていなかったけれど、京子の崇拝する小説家としてお茶の会などには招いたこともあるので、蘭堂が犯罪捜査などには仲々腕のあることもよく知っていたのだ。
「それではやっぱり、……で、御容態はどんなですか」
京子は負傷をして奥に寝ているか、入院でもしたのかと、尋ねると、伯爵はけげん顔で、
「エ、容態ですって? あなた何かお聞込みになったことでもあるんですか。わしの方では容態どころか、全く行衛が分らんのです。しかも、家中のものが、あれの外出するのを誰も知らないでいる間に、消える様にいなくなってしまったのです」
その日の午前十時頃、京子の所へ一人の客があった。大きなロイド眼鏡をかけた、髭武者の変な男であったが、一通の手紙を持参して、京子に渡してくれということで、書生がそれを取次ぐと、京子は手紙を読んで、こちらへお通しせよと、彼女の居間へ案内させた。