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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
06 第六分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页
そして灯ともし頃、ここで身支度をして、すぐ安土へ出発となった。
「御乗馬は、西門口へまわしてあります。御家来方も、はやそこにてお待ちうけです」
右衛門大夫秀治は、さいごに室を立って、三、四名の側臣にかこまれながら寺の玄関を出たが、そこで案内者として待ちうけていた明智方の人々がそういうので、
「御苦労」
と会釈しながら、夕闇の境内を縫って、西門の方へ従いて行った。
ところが、彼よりも先にどやどやとここを出た波多野家の諸臣は、同じように外に待っていた明智方の武士たちに、
「御主人の御乗馬は、東門の外につないでおきました。どうぞ、あちらへ」
と、指さされたので、彼らは主人の秀治が行った方角とは真反対な、東門の方へ伴われていたのである。
いずれ自分らの主人は、すぐあとから来るものと信じていた。しかし、東門の外へ出てみた途端にふと怪しんだのは、そこに待っているはずの乗馬も小者たちの影も見えない。ただ寥々たる夕闇があるだけだった。
「御乗馬や供の者は、いずれにおりましょうか」
一団になって佇みながら、波多野家の臣たちがこう明智方の者へたずねると、そのことばが終らないうちに、四方の夕闇から一斉に答えたものがある。