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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

06 第六分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页

青空文庫

大気者

つまり当時の人々の慣例や常識にないことであった。

「やあ、見えたか」

やがて、謁見の広間に、席をかえて、秀吉を待っていた信長は、ゆうべの信長とちがって、日常、諸侯に接しるとおりな信長であった。

秀吉も、いと慇懃に、

「爾来は、陣務のため、つい奉伺を怠りまして」

と、詫び、

「いつもながら御健勝のていを拝して」

と、式どおりな礼儀を述べたが、ただ今朝の登城には、養子の秀勝を連れて来たので、

「かくの如くに」

と、その元服すがたを、信長の眼に供えた。そして主君の満足そうにうなずく面を仰いで、彼自身も同じ満足をこの朝に抱き合った。

大気者

饗応には、秀勝も同席したが、後の茶の湯には秀吉だけが招かれた。

お相伴には、丹羽五郎左衛門と長谷川丹波守。それに、医師の道三がお詰という顔ぶれ。

亭主役の信長は、いつのまにか衣服もかえて、簡素な十徳を着ていた。陰の水屋には宗易の心くばりがはたらいている。

「筑前には、但馬、因幡などの陣中でも、折ふしには、茶をいたされておられるか」

信長の問いである。

炉のまえに在る彼のすがたは、そこに懸けられてある姥口の霰釜とともに破綻なくひたと坐っていた。